読書レビュー「これからの男の子たちへ」太田啓子
「これからの男の子たちへ」ージェンダー問題を扱った本は女性、女の子向けが多い中、明確に「男の子」とタイトルに入っているのはめずらしい。なんでだろう。私には小1の息子がいて、性教育は避けて通れない課題だと思っていたので、勉強しようと手に取りました。
これからの男の子たちへ: 「男らしさ」から自由になるためのレッスン
著者太田啓子さんは、離婚事件やセクシャルハラスメント、性暴力問題を扱う弁護士です。また、ご自身が小学生の男の子2人を育てるシングルマザー。マジョリティ属性の「男性」を育てる母親として、どんなことを気をつけることが今後の性差別や性暴力の減少に繋がるのか、との考えをまとめた本です。
「有害な男らしさ」
著者は男の子の子育てをする中で、同世代の親仲間のちょっとした発言にジェンダーバイアスを感じることがあると言います。これは私自身も感じます。
小4の娘が、ある日仲良しの子と「クラスの男の子に嫌なことを言われたし叩かれた」「私も!〇〇(男の子)に叩かれた!」と話していると、会話を聞いていたその子のお母さんに「男ってバカだから!気にすることないんだよ!」と言われた、と話してきました。
うーん…なんかモヤモヤする。女VS男、の問題なのか?女や男である前に、私たちはひとりの人間である、と少なくとも私は考えているし、社会もそうであってほしい。そう思っている人も少なくないと思います。
この本で引用されている『男らしさの終焉』(グレイソン・ペリー著、フィルムアート社)という本によると、「男性性の4要素」は、①「意気地なしはダメ」②「大物感」③「動じない強さ」④「ぶちのめせ」。これを「有害な男らしさ」という言葉にまとめています。
人間には、性別に関わりなく繊細、優しい性質を持つ方もいて、それぞれの個性になります。上記の「男らしさ」が社会背景にあるとしたら、男性の弱みや悩みはどんなふうに対処したらいいのか。それが、アルコール依存症や自殺が圧倒的に男性に多い理由のひとつにもなっている。
「有害な男らしさ」を社会に刷り込まれ、そのまま大人になった男性がDVや性差別事件を起こしていることを、仕事を通じて目の当たりにする著者。
こうした性差別的な言動をする人や組織を減らすにはどうすればいいのかと考えると、やっぱり大人になってからの教育だけでは遅いと思うのです。
もちろん、企業や役所等の職場で、セクハラ研修を義務づけたり、性差別的な言動をする人は人事上マイナスに評価して要職に就かせない、といったことは大切です。ただ、それによって「こうした行為や発言がなぜ許されないのか」という根本的なことを、内心まで浸透させ、納得させられるかというと、やはり非常に時間がかかるし、限界もあるのではないかと思います。
それよりも、可能な限り若い──むしろ幼いうちから、性差別的な価値観をもたせないための教育をすることに、もっと力を注ぐべきではないでしょうか。
「可能な限り若いうちから」ーこの言葉にドキッとしました。小1の息子には、性について伝えていくのはまだ早い、と先延ばしにしていた感があるから。
先延ばしにしている間に、子供たちは社会によって刷り込まれる「男らしさ」という考えを強化していって、手遅れになるかもしれない。
後半には、タレント、エッセイストとして活躍される小島慶子さんとの対談があります。
現代の離婚事案やご自身の配偶者の例を挙げながら、「男性が大人になるまで性差別についての思考を停止すると(させられると)、その人の考えを変えるのはもうほとんど手遅れ。社会を変えるには、今後の男の子たちの教育が重要」という内容を話しています。
感想
性被害だけでなく、ニュースで悲惨な事件を見るたび、途方に暮れるような感覚に襲われます。その加害者が悪いのはもちろんですが、ぐっと深く「なぜ?」を何度か考えていくと、加害者に犯罪を起こさせるのは、社会背景やまわりの文化も一因なのではないか、と行きつくことが多々あるからです。
ゾッとするほど大きな「世間」は、どうしたら変化していくのだろう。
自分のちょっとした「小さな違和感」にフタをしないで、考えて、行動する必要があるのではないか。
「そうだよね?」と自分と違う意見に同調を求められて、「違うと思う」と声高に主張できなくても、黙る、とか。そういうことの積み重ねが、自分の意見に自信を持つことにつながって、同調圧力に抗う勇気になるのではないかな。
理不尽な悲しみを少しでも減らすために、自分の子どもたちに母親としてできることは、まずは傾聴。子どもの考えの観察。バイアスを取り除いて、自分で考える大切さを伝えること。そのためにも、親自身が「自分」を主張する姿を見せること。